徹底解説! アニメ『WIND BREAKER』キャラソンプロジェクト【S-MASH UP】――“対話するように響かせるキャラソン”の作り方②
2025.11.26


2025.11.26
ケンカのてっぺんを目指す高校生たちが街を守るためにライバルたちと闘いながら成長していく、にいさとるの人気ヤンキー漫画を原作に、アニプレックス(以下、ANX)が映像化を手がけたアニメ『WIND BREAKER』。
その熱い物語に呼応するように始動したのが、“音楽で対話する”キャラクターソング(以下、キャラソン)企画である【S-MASH UP】プロジェクトだ。キャラクターの言葉からインスピレーションを得て生まれた本企画は、これまで第1弾から第4弾までを展開している。
ほかに類を見ないキャラソン企画の制作の裏側や制作過程について、楽曲制作を手がけたメイン作家、アニメプロデューサー(ANX)、音楽ディレクター(ANX)にそれぞれの視点から話を聞いた。
目次

岡田一成
Okada Kazunari
作詞家、作曲家

馬瀬みさき
Umase Misaki
作曲家、編曲家

瓜生恭子
Uryu Kyoko
アニプレックス
アニメ『WIND BREAKER』プロデューサー

西田圭稀
Nishida Keiki
アニプレックス
アニメ『WIND BREAKER』音楽ディレクター
記事の中編はこちら:徹底解説! アニメ『WIND BREAKER』キャラソンプロジェクト【S-MASH UP】――“対話するように響くキャラソン”の作り方②
記事の後編はこちら:徹底解説! アニメ『WIND BREAKER』キャラソンプロジェクト【S-MASH UP】――“対話するように響くキャラソン”の作り方③
TVアニメ「WIND BREAKER」キャラクターソングプロジェクト【S-MASH UP】再生リストはこちら
――まずは【S-MASH UP】プロジェクトが実現した経緯を教えてください。
瓜生:【S-MASH UP】プロジェクトのスタートは、アニメのパッケージ制作を進めていくなかで、どういった特典をつけようか? という制作チームの話し合いから生まれたものでした。
『WIND BREAKER』はキャラクターが非常に魅力的な作品。そのひとつの表現としてキャラソンを作りたいという話を、ANXで音楽制作を行なう専門部署・SSチームの西田さんに相談したところ、“だったら、こういうことがやりたい”という提案を、熱い企画書つきでもらいまして。内容もアニメのプロデュース視点では、絶対に出てこない新しさがあり、ぜひやってみよう! ということになりました。
――キャラソンをCDなどでリリースすることはありますが、今回はそうではないんですよね。
瓜生:はい。あくまでファンの皆さんに喜んでもらえるパッケージ特典は何か? から、キャラソンという選択肢を選びました。
実際、【S-MASH UP】プロジェクトによる今回のキャラソンは、キャラクターの内面にフォーカスした歌詞と曲調で、セリフでは深掘りできなかったキャラクター性を伝えることができたので、ファンの方々からも好評をいただいています。
――そもそも西田さんが企画した“キャラソンをマッシュアップする”というアイデアは、どこから生まれたのですか?
西田:ANXのなかで音楽制作を専門に行なうSSチームにいる以上、すべての作品において、どうしたら音楽で貢献できるか? を常々考えていて。クオリティの高い劇伴を提供するというだけでなく、ほかにもSSチームとしてできることがあるなと思いついたのがキャラソンでした。
ただ、僕の感覚では、最近、音楽を題材としたアニメ以外で、キャラソンが作られることが少なくなったと感じていて。そんななかで、『WIND BREAKER』のキャラクターの性格上、セリフにはならない本人の魅力を楽曲に込めたキャラソン、イメージソングというかたちならストレートに伝えることができるのではないかと思ったんです。そこを考えていくうえでインスパイアされたのは、作中のセリフとストーリーですね。
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――どういったものですか?
西田:まずは、ファンの間では有名な、梅宮一が主人公の桜遥に言った言葉、「ケンカは“対話” 拳は時に言葉より相手を知る言語になる」です。
このシーズンのお話では“防風鈴”と“獅子頭連”というヤンキー集団が敵対し、最初はすごく嫌なヤツ、悪いヤツだとお互い反発しますが、ケンカを通してわかり合っていく。その物語はとても清々しいですし、僕の畑である音楽、特にライブシーンとも通じる部分があると感じたんです。
バンドもライブで対バン企画があると、やっぱりライバルという認識が強いこともあるんですよね。でも、実際にお互いの演奏を見聴きしたライブ後の打ち上げでは、“いい演奏だったね”“カッコイイ曲だったよ”と打ち解け合える。『WIND BREAKER』のキャラの気持ちが、身に染みて理解できたんです。
――では2曲のキャラソンをマッシュアップするという、斬新なアイデアはどこからきたのでしょうか?
西田:それも“ケンカは対話”からですね。それぞれの想いを歌った2曲のキャラソンを“対話=マッシュアップ”することで、ふたりのキャラクターの気持ちが通じ合った1曲を作ることができれば、より対話の部分を表現できる。作品のテーマがケンカなので、攻撃的な意味での“スマッシュ”と“マッシュアップ”をかけて、【S-MASH UP】プロジェクトと名づけました。
といっても、それはかつて例のないキャラソンの作り方。きちんと説明しなければ伝わらないと思い、僕としても異例ながら、企画書を作って瓜生さんにプレゼンしたんです。
瓜生:そもそもパッケージ特典企画を、SSチームから提案してもらうのは私も初めてだったので驚きましたが、音楽の作り方に詳しくない私でも、これは面白そうだ! とすぐに理解できました。音楽を専門にしている西田さんだからこそ生まれたアイデアですし、熱意もとても伝わりましたね。
――そんな新基軸の【S-MASH UP】プロジェクトがスタートし、岡田さん、馬瀬さんのおふたりに、西田さんが楽曲制作を依頼したわけですね。
西田:はい。まずはSeason 1のパッケージ特典用に第1弾の「桜遥(CV:内田雄馬)×杉下京太郎(CV:内山昂輝)」は岡田さん、第2弾「楡井秋彦(CV:千葉翔也)×蘇枋隼飛(CV:島﨑信長)」は馬瀬さんそれぞれに、ふたりのキャラソンを作曲してもらいました。歌詞はすべて岡田さんに書いていただいて、まずは桜の曲と杉下の曲をマッシュアップして、楡井と蘇枋の曲を制作していただくという流れでした。
実は岡田さんとは、お互いが駆け出しのバンドマンだったころ……僕たちが20歳くらいからの音楽仲間でして。その後、オリジナル楽曲の制作、プロデュース及び提供のほか、クリエイターのマネジメント業務を行なっている音楽制作会社“KIMONO”で、プロの音楽家として作家活動を幅広くやられているのは知っていましたが、なかなか仕事でご一緒する機会はなかったんです。
そのうえで【S-MASH UP】プロジェクトについては、それぞれの曲のイメージがいわゆるアニソンではなかったので、J-POPアーティストの楽曲をたくさん手がけている岡田さんに、ぜひお願いしたい! と思いました。
馬瀬さんは、僕の担当作では直近で、アニメ『TO BE HERO X』の音楽制作に参加していただいています。馬瀬さんともガッツリご一緒したのは今回が初なのですが、実は同郷で。ほかのお仕事を拝見しても劇伴も歌モノ(※ボーカルが入っている曲)ともに、とんでもない名曲を作られる素晴らしい作家さんだという印象でした。こういう新しい試みに、ぜひその力を発揮していただきたいと思い、オファーしたという経緯です。
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――西田さんからのオファーを、おふたりはどう受け止められましたか?
岡田:実は……正直に言えば最初の企画をもらったとき、内容よりも先に、西田さんと初めて一緒に仕事ができる! というのがうれしくて、ふたつ返事でOKしたんです。
でも、あとからじっくり内容を読むと……とんでもないオファーだ! と目が覚めまして(笑)。そんなキャラソンの作り方、聞いたことがないし、やったこともない。いや、どうしよう!? というのが、最初の印象でした。
馬瀬:私も、岡田さんとまったく同じです(笑)。西田さんと歌モノでご一緒するのは初なので、よしやってやろう! みたいな気持ちだったのですが……企画書を見て、おおっ、何だこれは!? と。
――一番の難しさはどこにあったのでしょうか?
馬瀬:まず、マッシュアップするための2曲を書くうえでの音楽的な制約がありました。2曲は曲のキーを合わせて、曲のテンポとコードは同じにする。
さらに、マッシュアップするためにふたりのキャラが自分の曲のメロディを同時に歌うことを想定して、それぞれの曲のコード進行、コード感を似せて作るというのが決まりでした。一気にふたりが歌って、どう調和させたら違和感なく1曲に聴こえるのか? が、一番悩んだポイントですね。
岡田:単独の楽曲として1曲ずつ作っていくのが、本来の作曲家の仕事。“マッシュアップした1曲”というゴールに向かって、制約があるなかで2曲を同時に作っていくという作業が、かなり未知の世界でしたよね。
西田:僕もやったことがない制作だったので、未知ではあったのですが……テンポとキーとコードの3つが合えば、理論上は曲をちゃんと融合できるはずだ! と(笑)。でも結局、『WIND BREAKER』のキャラクターたちって、ケンカのときもお互いが相手の出方を上手く読み合ったり、戦略を考えたりするのではなく、単純に全力で自分をぶつけにいっている。
2曲でそれぞれの正義をぶつけ合い、マッシュアップすることでわかり合う姿を表現したかったので、それぞれの曲を細かく似せることに気をとらわれず書いてくださいと、制作過程でも何度かお話しさせてもらいました。
ただし、キャラクターの個性の差別化はしっかり出したかったので、それぞれの性格やビジュアル、立ち居振る舞いのイメージは、リズムの刻み方やメロディの取り方を工夫して、曲に反映していただきました。
岡田:第1弾は僕の制作から始まったのですが、まずはやってみないとわからないという、ちょっと見切り発車でスタートしたところはありました(苦笑)。そこから、馬瀬さんが第2弾を書かれ、第3弾では僕と馬瀬さんがタッグを組んで作り……と続けていくうちに、どんどん自由になっていった気がします。
――岡田さん、馬瀬さんは具体的に、曲づくりをどう進めていきましたか?
岡田:今回、僕は全曲の作詞を担当したのですが、作曲、編曲はいつも一緒に音楽を作っている同じ音楽制作会社(KIMONO)のクリエイター陣とチームを組んでトライしました。
第1弾は本当に勝手がわからなかったので、まずは僕が曲のコード進行だけを書いた譜面をみんなに配り、伴奏のトラックを作るところから始めましたね。そもそもの作曲手順は人によってケースバイケースですが、基本的にはメロディを先行して作るか、トラックを先に作るかの2択。
今回に関しては、まずマッシュアップ後を想定して2曲のトラックを作り、それが揃って同時に鳴ってもおかしくない状態にして、あとからメロディを作って、最後に歌詞を書くという段取りで進めました。
――馬瀬さんは今回、おひとりで作曲、編曲をされたんですよね。
馬瀬:はい。今回は私もコードから作り始めました。片方の土台(トラック)を作りながらちょっとメロディを乗せていって、もう片方のメロディがどう入ってくるかな? を想定して考えつつ……というような感じで。
アレンジも、1曲がこのコード進行だったら、もう1曲はそこからちょっと引き算をするように構成したらいいかな? というようなことを2曲同時に考えながら、各々を仕上げていった感じですね。初めての作り方でした(笑)。
――クリエイターのおふたりから、作曲方法がこれまでとは明らかに違ったというお話がありましたが、ほかに一般的なキャラソン制作との違いはありましたか?
瓜生:やはり“対話”が重要なテーマなので、どのキャラクター同士をマッシュアップするかという人選とそれぞれの関係性については、いつも以上にこだわりました。『WIND BREAKER』は個性あふれるキャラクターが多いので、この組み合わせが見たい! あの組み合わせも見たい! というのがたくさんありまして。厳選に厳選を重ねて絞り込んだのが、第1弾から第4弾までの4組8人です。
また、今回はアニメのパッケージ商品に順次同梱される楽曲なので、歌詞の内容をそのときどきのストーリーに沿った関係性として書いていただいたのも、通常のキャラソン制作とは、違っていた点だと思います。
それと、一般的にキャラソンは、キャラクターが物語上で果たす役割や位置づけから、どんな曲がいいかを考えることが多いのですが、今回はキャラの雰囲気というよりも、深く内面に迫った楽曲になっています。なので“キャラ本人が歌うキャラソン”というより、“キャラクターが独白しているイメージソング”に近くなりました。
――このキャラクターの楽曲はこうしてほしいというような岡田さん、馬瀬さんへのオーダーはどのように行なわれたのでしょうか。
西田:キャラソンに限らず、作家さんに楽曲をお願いする際は、曲調の参考にしてもらえるよう、既存の楽曲をリファレンスとしてお渡しするのですが、今回はあえて制限を設けてオーダーを考えました。
――どのような制限でしたか?
西田:まずは“若い男性が歌っていて格好いい、J-POPである”ことですね。僕のなかでJ-POPの男性曲の最高峰は、やはり人気男性アイドルグループが歌う曲が多いなという印象です。
だから、同じ分野で差別化がある男性アイドルグループを挙げて分類し、そのなかで各キャラクターと親和性の高い楽曲を選んで、グループごとの特徴に合わせてそれぞれのキャラクターに欲しいイメージを加えていきました。
例えば、洗練されたイメージの強いグループの曲なら“偏差値が高そうな曲”、個性の強い曲を歌っているグループなら“トリッキーな要素を強めて”、王道のグループなら“ストレートなポップス”というように。
音楽性もそうですが、今回はキャラクター本人の性格やビジュアルも大事なので、それを楽曲サンプルだけで伝えるのは難しい。また、アニメ制作チームに伝えるには、なじみのあるJ-POPのほうが、より理解してもらえると考えました。
瓜生:この話を聞いて西田さんのイメージが、すごく伝わりました。劇伴制作もそうですが、特に歌モノの場合は、ANXのなかにアニメ作品に対しても造詣が深く、こちらが投げた球をしっかり打ち返してくれるSSチームという音楽の専門チームがいてくれる有り難さを、改めて感じましたね。
中編では、第1弾と第2弾の楽曲制作について聞いた。
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文・取材:阿部美香
撮影:干川 修
©にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project
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